移住を検討する際、多くの人が不安に感じるのが医療環境です。「地方は病院が少ないから心配」という声はよく聞きますが、実態はどうなのでしょうか。都市部と地方の医療アクセスの違いを具体的に見ていきながら、地方でも安心して暮らすための知恵を紹介します。
病院数と医師数の地域格差
日本全体では人口10万人あたりの医師数は約270人ですが、地域によって大きな偏りがあります。東京都や京都府は330人を超える一方、埼玉県や茨城県は180人前後にとどまります。意外にも、地方でも大学病院のある県庁所在地周辺は医師が集中しており、必ずしも「地方=医師不足」とは限りません。
問題になるのは、県庁所在地から離れた中山間地域や離島です。最寄りの病院まで車で30分以上かかる地域は全国に点在しており、こうしたエリアでは「ちょっと体調が悪い」程度では受診をためらいがちになります。
移住先を検討する際は、自宅から車で15分以内にかかりつけ医(内科・歯科)があるかどうかを基準のひとつにするとよいでしょう。
専門医へのアクセス
風邪や軽い怪我なら地域の診療所で対応できますが、専門的な治療が必要な場合は状況が変わります。皮膚科、眼科、耳鼻科といった専門科は、人口の少ない地域では近くにないことがあります。
特にがん治療、心臓手術、脳神経外科などの高度医療は、地方では県内に対応できる病院が1〜2施設しかないこともあります。持病がある方や、家族に治療中の方がいる場合は、専門医との距離を慎重に確認する必要があります。
ただし、日本の医療制度では紹介状による病診連携が整備されており、地域の診療所から必要に応じて専門病院への紹介を受けることができます。日常の健康管理は地元のかかりつけ医に任せ、専門的な治療は都市部の病院を受診するという使い分けは、地方在住者にとって一般的な方法です。
救急医療の体制
救急医療は、軽症(一次救急)、中等症(二次救急)、重症(三次救急)の三段階に分かれています。
一次・二次救急は多くの地域でカバーされていますが、三次救急(救命救急センター)は全国に約300施設しかなく、地方では県内に数カ所ということも珍しくありません。
救急車の到着時間も地域差があります。全国平均は約10分ですが、山間部では20〜30分かかることもあります。さらに、搬送先の病院までの時間も加わるため、発症から治療開始までのトータル時間は都市部と大きく異なります。
一方で、地方ではドクターヘリの運用が進んでおり、重篤な場合は医師が現場に駆けつける体制が整っている地域も増えています。移住先のドクターヘリの対応エリアかどうかも確認しておくと安心です。
オンライン診療の活用
医療アクセスの課題を補う手段として、オンライン診療が急速に普及しています。スマートフォンやパソコンを使って、自宅にいながら医師の診察を受けられる仕組みです。
2020年以降の規制緩和により、初診からオンライン診療を受けられるケースが増えました。特に、慢性疾患の定期的な薬の処方、メンタルヘルスの相談、皮膚疾患の診察など、対面でなくても対応できる分野では積極的に活用されています。
処方箋はオンラインで発行され、最寄りの薬局で薬を受け取るか、配送してもらうことも可能です。近くに専門医がいない地方在住者にとって、都市部の専門医にオンラインで相談できるのは大きなメリットです。
ただし、検査や処置が必要な場合はオンライン診療だけでは完結しません。あくまで対面診療を補完するものとして位置づけ、かかりつけ医との併用で活用するのが現実的です。
移住前にやっておくべき医療の準備
医療面での不安を減らすために、移住前に以下の準備をしておきましょう。
かかりつけ医の候補を探す:移住先周辺の内科・歯科を中心に、口コミサイトや自治体の医療機関一覧で候補を絞っておきます。移住体験の際に実際に受診してみるのが理想的です。
持病の治療計画を主治医と相談:現在通院中の方は、移住先で引き続き治療を受けられるよう、主治医に紹介状を書いてもらい、移住先の病院との連携を事前に確認しておきましょう。
救急時の対応を確認:最寄りの救急病院の場所と連絡先、夜間・休日の当番医の調べ方を把握しておきます。自治体の広報やウェブサイトに情報が掲載されています。
医療費助成制度の確認:子どもの医療費助成や、特定の疾患に対する助成制度は自治体ごとに異なります。移住先の制度を確認し、必要な手続きを整理しておきましょう。
医療環境は移住先選びの重要な要素ですが、それだけで判断するものではありません。地方でも工夫次第で十分な医療を受けることは可能です。自分と家族の健康状態に合わせて、現実的な対策を立てた上で移住を楽しんでください。